Merengue Panic



Advent Calendar 2022 7日目の記事

オラ・デ・ラ・ソラミミ(埼玉編)

メレンゲやサルサはトランスカルチャとして スペイン語圏だけでなく世界中で愛されている音楽・ダンスです。 もちろん言葉を理解して歌詞をしっかり味わうのが常道ですが、 逆にスペイン語を解さない日本語話者だからこその特権的な楽しみもあります! いわゆる「ソラミミの時間」。 3回シリーズでお伝えするソラミミのススメ、2話目です!

大まかな詞のカテゴリ

メレンゲやサルサの歌詞を聞いていくと、 いくつかの内容的なカテゴリがあることが分かります。 とりわけその中でも群を抜いて数が多いものがふたつあります。

ひとつはハッピー・ゴー・ラッキー的な、 楽しいゼ、音楽のリズムがいいゼ、 ワイワイやろうゼ、というパーティ・ソングです。 この手の詞には素頓狂・粗野・軽薄・悪ノリの気分が多く漂っており、 言葉遊びや印象的なコロのフレーズなどが特徴になることが多い傾向があります。

もうひとつは定番の恋愛ソング。 恋愛歌はどのジャンルでも歌謡曲/流行歌の基本ですね。 やはり強く人の感情を揺さぶるのは恋愛モノ、とりわけ失恋の歌ということになります。

もちろん、それ以外のテーマの歌詞もたくさんありますが、 上のふたつのフォーマットは様々な思いをその中に流し込める汎用性の高さが魅力です。 一見フェスティヴなだけの詞の中に 現在への深い祈りが隠れているような詞が民衆の心を打つケース、 あるいは色恋のメッセージに隠して政治批判や社会への批評が込められるモノなどがあります。

ソラミミを楽しむ上でも元の歌詞の意味を少しでも理解しておくと、 より深い味わいになることもありますよ。

サイタマだ

さて、ではソラミミの時間の第2弾はティンバの素晴らしい名曲、 Bamboleo の "Ya No Hace Falta" からお送りします。

Duck Duck Go で Bamboleo の "Ya No Hace Falta" を検索(外部リンク)

かつての恋人を突き放しつつも内心は戻ってきて欲しいと願う、 微妙な心理を美しいメロディに載せて丁寧に歌ったトラックですが、 ソラミミに掛かるとライトなローカルナショナリズムの可笑しみになってしまいます。

サビのキメの部分での一言、 "salta pa' atrás" が今回のフレーズです。 見事に「埼玉だ!」と叫んでいるのが分かると思います。

音韻的には /p/ の音が /m/ に聞こえるというのは両唇音つながりですし、 /tr/ の二重子音が /d/ になるというのも道理ですから、 これは非常に必然性のある聞き間違いといえるでしょう。

歌川国芳による畠山重忠
鵯越えで馬を背負う重忠 by 歌川国芳

また、これが東京や大阪ではなく、 あるいは神奈川でも千葉でもなく、 「埼玉」である点がソラミミとしては秀逸です。 さらに「埼玉だ」の「だ」がなかなか利いていて、 これが「ダ埼玉」というやや失礼(?)な流行語を想起させる点でも 滑稽さを強めています。

なお、ここにはちょっぴりブラックなナショナリズムジョークの地方版の趣きがあります。 強すぎるナショナリズムや差別は頂けませんが、 ユーモアの範囲で笑える程度の軽いナショナリズムは逆に境界の力を弱める作用があります。 ですから、これくらいは寛容な埼玉関係の皆さんは笑ってくださると信じています。 そういえば、あえて侮蔑の言葉を投げ掛けることで、 それを鷹揚に受け止める人の器量を逆説的に賞賛するという方法はアフロ文化の伝統でした。

曲のよさも相まってソラミミとしてはTシャツ級としてもよさそうな気もしますが、 なんとなく「てぬぐい希望」になっていそうな雰囲気も感じるところでしょうか。

明日に続きます!

posted at: 2022-12-07 (Wed) 12:00 +0900