シューズも自由
ダンスのために特別に準備する道具として一番最初に思い付くのは ダンスシューズかもしれません。 世の中にはボールルーム用のダンスシューズを専門に扱うお店もあり、 ダンスをするからにはダンスシューズでなくっちゃ、 という気分はサルサやメレンゲを踊る人にも共有されているようです。
まずは男性のシューズについて。 男性は女性に比べれば専用のシューズを準備する人は少ないようです。 一般的な革靴やスニーカでも普通に踊れますし、 サンダルやワラーチで踊る強者までいます。
それでもソールの滑りやすさはターンのしやすさに直結しますので、 適度な堅さのラバーソールか 起毛のソールになった専用のダンスシューズを使う人が多いでしょうか。 銀面のレザーソールは滑りやすすぎるため避けた方がよいかなと思いますが、 会社帰りにパンチド・キャップトゥでそのまま踊っている人もいます。
このように一般の靴で踊るリードもいますが、 クラブでは靴を履き替えて踊る人も多くいます。 専用の靴としては柔らかいジャズシューズを使う人もいれば、 革靴のダンスシューズを持ち歩く人もいますね。
いずれにせよ、服装と同様、どんな足元で踊ることもできるのがラテンクラブダンスです。 ご自身に合ったシューズであれば全く問題ありません。
マンボシューズ
ところで、サルサダンサのシューズの定番といえば白黒コンビのシューズ、 いわゆるコレスポンデントシューズです。 ちょっと「マンボ」なフロアにいくと男性の半分が白黒コンビを履いている、 ということもあるくらいにメジャーなシューズですね。
このシューズは一般にはスペクテータシューズと呼ばれます。 スペクテータというのは観客という意味で、 スポーツ観戦をする人のシューズというくらいの意味。 いろんな形状や色の按配があり、 トゥがストレートのものやウィングチップになったものが多いですが、 最も一般的なのは穴飾り(パーフォレーション)が目一杯入ったフルブローグのもの。
ヒールはキューバンヒールと呼ばれる独特の逆台形型があり、 こだわりのダンサの足元はこれになってるケースが多いです。
この靴は合州国ではコレスポンデントシューズと呼ばれます。 レスポンデントとは離婚裁判などの被告人を指します。 「コ=レスポンデント」ですから共同被告人のこと。 これはニューヨークあたりで離婚裁判をするとき、 妻(被告人)の間男(共同被告人)を召喚するとだいたいこの靴を履いていた、 ということからの命名なんだそうです。 つまりプレイボーイな伊達男の代名詞のような靴だったんですね。
もともとこの靴は20年代や30年代のハーレムで ジャズミュージシャンやスウィングダンサたちの「正装」だったようです。 ラテンクラブダンスの文化は先行するスウィングダンスの文化に影響を受けていますから、 50年代のラテンミュージシャンやマンボダンサたちも 同様にこのコレスポンデントシューズを愛用しました。 人によっては「マンボシューズ」と呼ぶ人までいるほど、 この靴はサルサ界隈のスタンダードになっています。
こうした伊達男たちはこのコレスポンデントシューズのトゥを、 徹底的に鏡面磨きにしました。 これは現在でもサルサのソロパートをシャインと呼ぶ言い方に残っています。 つまり、ハイシャインに磨かれたトゥを相手にショウオフする、 そういうステップがシャインステップということなんです。 だから、サルサのシャインでは爪先を伸ばす動きが肝腎。 ミラーボールの光を受けてきらきらさせるのが粋なんですね。
これは多くのラテン人や黒人が靴磨き屋だったことも関係するのかもしれません。 前にもふれたように、 ラテンのクラブダンスは金持ちではない人々の音楽・ダンスですから、 エナメルのパンプスを自慢するようなスタイルにはなりません。 そもそもハイシャインの技術はエナメル靴を持てない貧しい人々が、 そのテクスチャに負けじと磨き上げたことから生まれたともいわれます。 したがってラテンクラブでの最正装のシューズがエナメルではなく、 ハイシャインのコレスポンデントシューズという文化は、 まさに往時のニューヨークにおける貧困層のあり方を反映しています。
ちなみに、ボールルームダンスの場合、 最正装や準正装の場合は当然ホワイトタイやブラックタイですから、 足元はオペラパンプスということになります。 靴墨で女性の靴や衣裳を汚さない配慮といわれますが、 こちらは貴族趣味を継承したダンスであるといえます。
スーツ1着を毎日着まわしていてもブラシはしっかりしているし、 足元はちゃんと磨いて光っている。 こういう気分に粋を感じ、 それに連なろうとする気概が現在のサルセーロたちにも残っているのかもしれません。 丁寧に鏡面磨きにしたハイシャインのコレスポンデントシューズで、 サルサを踊る粋というのもあるでしょう。
明日に続きます!