Merengue Panic



Advent Calendar 2024 7日目の記事

ケチャップのサボール(2)

サルサとはスペイン語でソースのこと。 そしてアメリカを象徴するソースといえばもちろんトマト・ケチャップ。 今回はサルサというジャンル名の由来でもある トマト・ケチャップを使った料理のオリジナルレシピをご紹介していきます。 3回シリーズの2話目!

ぼくの味

それがトマト・ケチャップであれ、 デミグラスソースであれ、 ウスターソースであれ、 しっかり素材に味が染みるということにソースのポイントがあります。 この点がソースがドレッシングと異なるところ。

サルサファンの間ではときどき話題に昇るトピックですが、 味を具材の芯まで沁み込ませるのが本来のソース=サルサのあり方で、 上から表面にだけ掛けて安易に済ませようとするのはドレッシング的使用法です。 ドレス、つまり上辺だけを飾ることでは複雑な味わいは出てこないのであって、 しっかり煮込み、 あるいは混ぜ合わせることで素材に深く味が浸透することが大事だということです。

Javier Solís
Javier Solís

ところで、音楽ジャンルとしてのサルサが、 このような素材の芯まで味を染み込ませるソースという味覚的イメジで語られるとき、 その気分を端的に楽曲化している1曲といえば、 ボレーロの名曲、 "Sabor A Mí" でしょう。 メキシコのボレーロ作家 Álvaro Carrillo によって、 サルサが音楽の名前になるよりも前の1959年に作曲されたこのナンバは、 多作で知られる Carrillo にとっても最大のヒット作です。 キューバの Rolando Laserie が歌ったオリジナル・ヴァージョン以上に人気になったのは Los Panchos がブロンクス出身の Eydie Gormé と一緒に録音した64年のヴァージョンでした。 それ以外にも多くのミュージシャンにカヴァーされたラテン・スタンダードですが、 数あるアレンジの中でも特に素晴らしいテイクはやはり Javier Solís のものでしょう。

美しいボレーロのメロディに加え、 『ぼくの味』と題されたこの歌詞は、 身体的・味覚的なメタファこそあらゆる観念語以上に 透徹した愛の表現であると教えてくれます。

ぼくたちはずいぶんと長い間この愛を慈しんできた
ふたりの心は限りなく近い
ぼくはきみの味がする
でもきみだってぼくの味がするんだよ

もしきみがぼくを袖にしようったって
抱きしめてこういうだけでじゅうぶんさ
ぼくはきみにたくさんのものをあげたんだ
どうしたってきみはぼくの味がするんだよ

別にきみを征服しようっていうんじゃない
ぼくはなんでもないんだ、うぬぼれちゃいないよ
ぼくの持っているいいものをあげたんだ
貧しいぼくに何が残っているというんだい?

千年後かもっと先
永遠の愛があるかどうかは知らないけれど
いまここでそうであるように
きみの口からはずっとぼくの味がするんだよ

(私訳)

男女の身体的な交感と読めば官能的でねっとりした詞ですが、 自立したふたつの個のサボール(味)がお互い骨の髄まで染み込み合う関係とは、 他者との一致を求める解放的な結合のメタファと解釈することもできるでしょう。

そういえば、自律的な両者の間の秩序だった関係性を踊るサルサダンスに対し、 ボレーロはこうした融合を指向する特異なダンスなのでした。

いま、それをライスとケチャップの関係に見立てれば、 まさに "Sabor A Mí" な肉感的ケチャップライスを想像できるでしょう。

では、このケチャップライスを使ったオムライスのレシピです。

オムライス

では洋食の王様、オムライスを作っていきましょう。 まずは材料です。

  • 自家製ケチャップ - 75g+適量
  • ご飯 - 1合
  • 鶏ムネ肉 -
  • タマネギ - 半個
  • マッシュルーム - 適量
  • 日本酒 - 30g
  • 卵 - L玉3キ
  • バター - 40g
  • 塩・胡椒 - 少々

調理にはフライパン2枚を使います。 ご飯も炊いておくので土鍋派の方はコンロが2口あると便利です。 あるいはご飯を炊き終わってから調理スタートでも可能ですので、 その場合は先に土鍋をコンロから降ろしておけば1口でも大丈夫です。

まずタマネギは微塵切り、鶏肉とマッシュルームを 1cm 角に切っていきます。 そうしたらバターを 30g ほど入れたフライパンを中火に掛けます。 タマネギを先に入れて炒め、頃合いを見て鶏肉とマッシュルームも投入してください。 ある程度全体的に火が通ったらお酒を入れて蓋をし、しばらく蒸らします。

ここで自家製ケチャップ 75g を入れましょう。 しっかり具材と混ぜることがポイントです。 塩・胡椒でしっかりめに味を整えたら、 予め炊いておいた温かいご飯を加え、全体をよく混ぜケチャップを馴染ませます。 ご飯の芯まで染み込ませてケチャップの味にしてください。 これでケチャップライスの完成です。

次にフライパンを交換して残りのバター 10g を敷き、温めます。 その間に卵をボールに割ってよく溶き解しましょう。 しっかり空気を含ませるように白身を切りながら混ぜます。

そうしたら、卵液をフライパンに入れてスクランブル。 卵は外側から焦げるので外から中へ入れ込むように混ぜるのがポイント。 半熟のタイミングで火から離し、卵の上にチキンライスを乗せます。 この火加減はなかなか絶妙なので何度か失敗しながらタイミングを掴んでください。

Omurice
from wikimedia.org

ここからは手技の見せ所、卵の手前側を少し畳んでフライパン全体を奥に傾けます。 持手の方が高くフライパンの遠い方が低くなり、先側だけ火に掛けるようにします。 この状態で持手の手首を逆の手でトントン叩いてチキンライスを包んでいきます。 卵の両端の継ぎ目の部分を少しだけ熱し、もう半周トントンして回します。 最終的に継ぎ目が上にあるようにしたら、皿を斜めに持ちます。 フライパンも斜めに持ち、皿とフライパンで V 字を作ったらフライパンを返すだけで、 綺麗に皿に移せます。

最後にケチャップを上からさらにかけて出来上がりです。 絵や文字を書くのはお子さま向け。ここは硬派にドボッといきましょう。 味付けのポイントは塩・胡椒。 かなりしっかりめにすることでケチャップの味も引き立ちますし、 卵との相性も抜群です。

タコとは何か

さて、ではもう1品ケチャップ料理としてタコライスにも挑戦です。

タコライスはタコスの具をライスの上に乗せた沖縄のソウルフード。 テクスメクスと琉球のミクスチャともいうべき料理です。

もともとのテクスメクスやメキシコ料理としてのタコは、 トルティーヤというトウモロコシの生地で何でも包んで食べるもの。 ちなみにタコスというのは複数形ですね。

中身の具材は何でも自由、 鶏や豚、羊や牛を様々に調理したものにレタスやタマネギを中心とする野菜類を乗せ、 チーズやトマトを入れることも。 あるいは海鮮やキノコ類などおよそどんな素材でも具にすることができ、 無限のヴァリエーションがあります。 そこにサルサ、つまりソースを掛けて食べるのですが、このソースにも様々な種類があります。 サルサ・メヒカーナやワカモレ、サルサ・ロハなどこちらも自由自在。 いろんな中身に様々なサルサを合わせるのですが、 唯一の条件はトルティーヤで具を包むということがタコなんですね。

いずれにしてもタコはサルサとの相性が抜群であるといっておきましょう。

Tortilleras Aztecas
from wikimedia.org

一般にはここでのタコとは詰め物という意味だとされることもありますが、 定説はなく、実に多様なタコ起源説があります。 まず、スペイン語においても taco はかなりの多義語ですが、 サルサダンスの文脈ではヒールという意味が大事です。 "taco alto" といえばハイヒールという意味になります。 あるいは「背の低いずんぐりむっくりの人」という不思議な語義もあります。 「ビリヤードのキュー」や「木片」などが taco と呼ばれることも。 この料理名の文脈では「一口で食べられるもの」という意味が関係ありそうです。 もともとプラグを指す言葉だったようで、 かつて銀山で働いていた鉱山労働者たちが火薬の詰物を 口に含んでいたことに由来するという説もあるようです。 「ハムの一切れ」や「吹き矢」、「一口サイズの塊」などの意味には この用法が残響しているのかもしれません。

また、ナワトル語に起源を持つと考える人もいます。 "tlahco" という語は真ん中とか半分という意味ですが、 古代のタコでは具をトルティーヤの真ん中の位置に置くべきものという解釈なんですね。

タコライス

では材料です。

  • 自家製ケチャップ - 100g
  • 牛豚合挽き肉 - 300g
  • ウスターソース - 10g
  • 醤油 - 30g
  • タマネギ - 半個
  • レタス - 4枚程度
  • パプリカ - 1個
  • 胡瓜 - 1本
  • パクチー - 4枚程度
  • アボカド - 1個
  • パルミジャーノ・レッジャーノ - 適量
  • フルーツトマト - 300g
  • レモスコ - 適量
  • タバスコ - 適量
  • ドンタコス - 数枚
  • 塩 - 少々
  • 日本酒 - 30g
  • サラダ油 - 適量

ここでもご飯は先に炊いておきます。 タコライスに使うご飯は固めに炊く方が相性がよいです。

まず挽肉に味を付けます。 割合はお好みですが今回は牛豚1:1の挽肉にします。 ウスターソースと醤油を加え、ケチャップを 10g ほど入れましょう。 塩・胡椒をしてよく混ぜたら サラダ油を引いたフライパンで炒めます。 ある程度炒まったら酒を入れて水分が飛ぶまで炒めます。 肉そぼろが出来たら粗熱をとっておきましょう。

野菜類です。 レタスとパプリカは 2cm くらいの食べやすいサイズに切り、 タマネギも荒微塵にしておきます。 胡瓜も適当な厚みでカットし、 パクチーは軸を外して葉っぱだけにしておきます。 アボカドは 2cm くらいに切ってレモスコをかけましょう。 レモスコは広島で売っている瀬戸内レモンを使った調味料で、いろいろ使えて楽しい1本。

最後にソースを作ります。 フルーツトマトを半分に切りボールに入れたら トマトケチャップとタバスコと塩で味を整えます。

器の真ん中(真ん中であることが大事!)にご飯をよそったらその上に挽肉を乗せ、 周囲に野菜類を配置し、上からたっぷりとフルーツトマトソースを掛けます。 コイケヤのドンタコスを砕いて散らしたら、 最後に削りたてのパルミジャーノ・レッジャーノをたっぷり振って完成です。

明日に続きます!

posted at: 2024-12-07 (Sat) 12:00 +0900