ベーシックは基礎
ベーシックは初心者にとっては最初のハードルですが、 初級に上がるとあまり関心も示されなくなり、 初中級者からは忘れられます。 中級者になるとときおり思い出されるようになり、 上級者はひたすらその練習に明け暮れるというアイテム。 その重要性を協調する言説は多いですが、 実際何がどうなのかを具体的に説明してもらえる機会はそれほど多くはありません。
多くのインストラクタはベーシックこそが基礎なのだと繰り返します。 こういってみてもただの同語反復で、 サルサソースとかフラダンスとかシーア派みたいなものですが、 それでもベーシックはやっぱり大事。
そこで今回はなぜベーシックなのかという根本的な問いをライトモティーフにしつつ、 具体的なベーシックの練習方法を復習していきましょう。
ベーシックに関しては初心から上級まで段階に応じて課題がありますが、 まずはなんといっても初心レヴェルのベーシックを見てみます。
インタロックとアイソレーション
メレンゲやサルサを初めて経験する初心者にとって、 ベーシックがカタチになるというのが最初の難関です。 これがスッとクリアできる人もいますし、 何年経ってもできない人もいます。 ベーシックが不自然でないことはコネクションやターンパタンの練習に進むための 最低限の条件ともいえますが、 ここが上手くいかないまま放置すると後から修正するのは本当に困難です。 なんでも初めが肝腎、覆水盆に帰らず。 ベーシックだけはちゃんと踏めるようになっておくとあらゆるスタイルで役に立ちます。
このレヴェルで単純化していえば、 ベーシックが踏めるということの意味はキューバンモーションができるということ。 腰の運動が胸郭の運動と連動することで足と手が協調的に動くのですね。 これができないのは長年の身体の使い方が原因、変な力が入る癖がついているからです。 立つとか歩くというときの癖なのでほとんど本人には自覚もない。 まずは自分の身体にどんな癖があるのかを把握するところからがベーシック練習です。
例えば、とりわけ男性に多いのですが、上半身と下半身の連動が上手くいかないタイプ。 腰と胸が全く別々に動いてしまうか胸がガチガチに固まった状態になっています。 これをほぐすためのトレーニングが必要ですがそれがインタロックの練習です。
インタロックとは身体の一部を動かすときに他の部分と協調することで、 より楽に、より大きく動かせるようにするテクニック。 実際は生活の中でも自然な動きをしているときは インタロックを利用していることも多いので誰にでもできる動きです。 一方、このインタロックの正反対がアイソレーションという概念。 アイソレーションとは他の部分を動かさないようにしながら身体の一部を自由に動かす技術。 精密な身体部位のコントロールを要するテクニックで意識で身体を支配しようとする、 ヨーロッパのダンスにおける基礎技能です。 よくサルサのレッスンに行くと準備体操の中でアイソレーションをやらされたりしますが、 初心者でまだベーシックが踏めない段階の人はこの練習を少し待って欲しいのです。 なぜならアイソレーションとインタロックは一緒に学ぶのが難しい技術だからです。 つまり食い合わせが悪い。 ダンサとしてステップアップしていくためにはまず インタロックの技術を身に付ける必要がありますが、 もちろんアイソレーションも大事なトレーニングではあります。 最終的には両方できるようになるべきなのですが 学ぶ順番を間違えると習得に時間が掛かってしまいます。 ラテンのダンスは身体を楽にして固めず連動しながら動くのが基本です。 ちなみに、実はアイソレーションができるようになると インタロックの精度もより上がったりするのですがそれは少し先の段階の話です。
インタロック練習法
では実際にインタロックの練習の仕方を見てみましょう。 BPM が110くらいのリズムのいい気持ちよい曲を用意してください。 音楽を掛けながらリズムに乗って首、胸、腰、膝の前後運動をそれぞれやっていきます。 この中でとくにキューバンモーションを身に付けたい人が取り組むべきは 腰を極としたインタロック。 それまで何度説明を聞いてもさっぱり上下の連動したベーシックが踏めなかった人が、 この腰の前後打ちの練習をしたら一発でベーシックの感覚を掴んだ、 という事例もあります。 人によって課題も状態もそれぞれですので過度に期待するのは困りますが、 これがワークする人というのはそれなりの数がいるのでぜひ試してみてください。
まず、腰のインタロックの場合、臍下丹田あたりに質点を意識します。 この質点をできる限り大きく前後運動させようとしてみてください。 両足は床についたまま肩幅くらいに開き目一杯質点を前に出します。 腰が前に出ると胸はカウンタバランスで後ろに下がり、 首はそのまたカウンタで前に出る。 腕は自然な連動があれば肘から後ろに引いていると思います。 次に前にある質点を出来るだけ後ろに引きます。 腰が後ろに下がるので胸と腕は前に出ます。 これを音楽に合わせて1拍ずつ前後運動していきます。 ポイントは腰のみを意識して胸や腕や首の動きは自然な連動にまかせること。 目一杯力を抜いて目一杯の振幅を出してみてください。
こんどは胸のインタロック。質点を鳩尾あたりに感じます。 この質点を前に出すと胸が前に出るので腕が引けます。 腰も反って後ろに行き首も後ろに引けているはずです。 次にこの質点を後ろにもっていくと腕と腰と首が前に出てきます。 これをリズムよく繰り返す。 この場合は胸の質点だけを意識し他を連動にまかせてください。
できるだけ力を抜くこととできるだけ往復幅を大きくすること、 これを両立しようとするのがポイントです。 力を抜けば抜くほどより速く大きく強く動かせる、という感覚を掴まえることが大切です。 力を入れてしまうと動きが鈍くなり、すぐに疲れ、 振幅も小さくなってしまうということが身体的に 理解できるようになればまずは第一段階突破というところでしょうか。 力が入るうちは5分インタロックするだけでそうとうに疲れますが、 軽く抜いて打てるようになると 30分くらいずっとインタロックしていてもまったく苦になりません。 明らかに自分で分かる身体感覚の飛躍があります。 これを腰と胸でできるようになること、余裕があれば首でも練習してみてください。
実はこれを膝で行うとほとんどそのままパチャンガのベーシックになるんです。 パチャンガができない、という人はそもそものインタロックができていないケースも多い。 パチャンガを練習するとサルサのベーシックが綺麗になる、 というのはよく聞く話ですがそれはこうした理由で説明できます。
ちなみに体幹連動ができなかった人がインタロックの練習で上下が繋がってくるようになると、 身体の中心が大きく動くようになるので末端である手足はそれ以上に動いてしまいます。 このため、インタロックを覚えたての人は無意味に手足がバタつくケースがありますが、 少し意識すればコントロールできるので気をつけてみてください。 一度インタロックを掴んだ人なら簡単に修正できます。

ところで、首のインタロックは一番難しい割にキューバンモーションとの関係が薄いため、 初心の段階の人は無理に練習をする必要はありません。 練習中は首の周りに力が入ってしまうので筋を痛めたり、 寝違えのようになってしまうリスクもあります。 ただ体幹連動としてはこの首のインタロックが奥義みたいなところがあって、 これが気持ちよくできるようになると腰や胸も含め、インタロックの精度がぐっと上がります。 また、ラテンダンスとは直接関係ないものの、 多くアフロダンスの基本ステップと関係もするのでのちのち ブーガルーのステップなどには応用することができます。 ブーガルーにはいろんなダンスファド由来のステップやムーヴがありますが、 「バード」と呼ばれる鳩を真似する動きは実はこの首のインタロックそのものなのでした。
キューバンモーション
ではいよいよラテンダンスのベーシックの本丸、キューバンモーションを練習しましょう。 具体的な方法は 『メレンゲ練習帳』の「だるま落としベーシック」 の項目を参照してください。
身体に新しい動きを覚えさせようとするときはすみずみまで 丁寧に意識してゆっくり動くことです。 注意点が多いので意識がパンパンになって身体もガチガチになりますが、 焦らずゆっくりゆっくり動き続けるとふと力の抜ける瞬間がやってきます。 自分が思っているよりもずっとゆっくり動くのがポイント。 身体の中に動きの通路が開かれてきて、 楽にできるなという感覚が出てきたら、速く動いてみてください。
コツが掴めたらきっとものすごく楽しくなってずっとベーシックを踏んでしまいます。 ここでちょっと注意が必要で、身体の力を抜いて急に大きく動けるようになると、 思っている以上に身体のあちこちに負荷がかかります。 それまでそんなに大きく動かしたことがなかったのですからね。 しばらく慣れてくれば問題ないのですが、エウレカ! と叫んだ日はちょっと気をつけてあまりやり過ぎないようにしてください。 関節や筋を痛めるかもしれません。
明日に続きます!