Merengue Panic



第2打 メレンゲは退屈?

「メレンゲってサルサやバチャータを踊れない人向けの退屈なダンスなんじゃないの?」 「メレンゲを踊り始めても最後まで間が持たないよね」というご意見・ご不満をよく聞きます。 メレンゲ批判のコメントとしては筆頭といってもいいかもしれません。 ただ、少しだけ考え方を変えてみると全く違った解釈ができるかもしれませんよ。

パートナダンスの覚え方

サルサやバチャータのダンサにメレンゲについて訊いてみると、 最も多い不満は、

  • 1曲の間にやることがないから謎の時間が多くなる
  • サルサやバチャータを踊れない人向けの退屈なダンスでしょ
  • 踊り始めても最後まで間が持たない

といった内容です。 これは少なくともリード目線でいえば、 ターンパタンが尽きてしまうという意味といっていいと思います。 どうしてメレンゲではパタンの手数が足らないと感じられるのでしょうか。

そもそもサルサのケースでもターンパタン不足を嘆くのはリードの常です。 リードは自分の出来るパタンをずっと掛け続けますから、 誰よりも自分のパタンに飽きやすいのです。 それでレッスンに行ってパタンを習得しなければと感じてしまいます。

リードがパタンを覚える場合、とくにサルサのケースでは、 レッスンに通ってターンパタンを習ってくる、 そのパタンをソーシャルの現場で試す、 少しずつ出来るようになって自分のものにしていく、 というのがサイクルです。

ダンス歴が長くなってくると、だんだんレッスンには行かなくなり、 代わりに YouTube で観た誰それのルーティーンだったり、 独自開発した展開だったりをソーシャルで試すようになっていきます。 もっとリードが枯れてくると、もはや新しいルーティーンには興味を覚えず、 既得のパタンのみをもって、 ただひたすらにソーシャル三昧するという境地に至ります。

一方で、メレンゲでは基本となるパタンがそれほど多くなく、 特定のスタイルが幅を利かせている訳でもないので、 自由に踊ることができます。 展開としてはどんな風にリードしてもいいので、 サルサやバチャータ、ズークやパチャンガなどのステップも ほとんどそのまま導入することができます。 あるいはもっと遠いジャンルのパートナダンス、 例えばリンディ・ホップやチャールストン、 ワルツやタンゴやフォークダンスなどのパタンでさえ、 比較的簡単に応用して組込むこともできます。 とても自由で接続力のあるダンス、それがメレンゲです。

その意味では他のダンスの経験がある人にとっては メレンゲのリードのパタンの枯渇なんてないはずなのですが、 この接続の按配に自信がない場合は、 「メレンゲ専用のパタン」というおしきせを求めて不足を嘆くことになるのです。

メレンゲの歩き方

もちろん、メレンゲにスタイルがそれほどないとはいえ、 最低限のベーシックや、 多少の「メレンゲらしさ」みたいなものはありますし、 一番最初から他のダンスのパタンの応用をするのは難しいと感じるかもしれません。 どう踊っても自由だといわれると、どうやっても踊れない、 と行き詰まってしまう人がいることは無理もありません。

あるいは、自分なりのスタイルで踊るのはやっぱり不安なので 誰かの真似をするのが早いし、無難だという感覚もあるでしょうか。 確立されたスタイルというのは確かに魅力的がありますね。 実際、最近のサルサやバチャータには様々な銘柄のスタイルが流通しています。 これらは効率的・合理的なレッスンなので「上達」が早いですし、 上手い下手の比較も、 完成形が既に示されているので評価しやすいというメリットがあります。

old map of Española
old map of Española from wikimedia.org

とはいえ、すべての旅行がパック旅行しか許されなくなってしまったら、 ちょっと息苦しいと感じませんか。 たまには気軽な個人旅行もしてみたい、 そんな気分とメレンゲをソーシャルで踊る感覚は似ているかもしれません。 パック旅行のときは何も考えなくても添乗員さんの旗の後ろをついていけばいいのですが、 個人旅行の場合は事前準備や調査が必要だし、 せめて地図やガイドブックは欲しいものです。 このサイトは最低限の地図と少しの体験談が掲載されている、 ささやかな個人旅行ガイドブックのようなつもりで作成しています。

ターンパタンに頼らないパートナダンス

そこで本サイトでオススメしているメレンゲの踊り方の一例は、 ターンパタンに頼らない方法です。 要は1曲の間ずっとベーシックステップをするつもりで踊りましょうという話です。

えっと……。個人旅行を薦めておきながら、完全にノープランですか。 昼間もホテルで寝てるだけなら、そりゃ退屈だといわれますよね。 でも、そうではないんです。 ずっとベーシックだけしているというのは、 ノープランで個人旅行に行くという比喩で正しいのですが、 行ってただ寝てるだけではありません。 例えば、現地のコンシェルジュさんや街の人に話を訊いてみながら 面白そうなところをその場で教えもらう、という方法なのです。 そして興味があって勇気が出るなら少し覗いてみる。 大きな美術館とか何とか祭りとかでなくても、 街角に意外な面白い空間を発見することだって旅の楽しみですよね。 旅行における「街」に相当するのがダンスでは音楽だということです。

踊りながら音楽をよく聴いてみると、その中でいろんな出来事が起きていますから、 それに反応してほんの少しだけ変化を楽んでみましょうということなんです。 この方法で踊るためには、 あれこれパタンを出そうと考えるよりも、 基本ずっとベーシックをしている方がむしろやりやすいのです。

そして、このやり方を実践するために必須なのが以下の3つです。

  • 自分も相手も心地いいベーシックステップ
  • 不安にさせないコネクション
  • 目一杯時間を使って楽しむミュージカリティ

これらはどれもパートナダンスの基礎といわれる領域ですが、 メレンゲを通じてこれらを鍛えると、 これはそのままサルサやバチャータに還元できます。 これだけでもメレンゲを踊る意義があるというものです。

ターンパタンの数やスタイリングの華美だけに頼らないで、 相手を楽しませようと思ったらベーシックを鍛えるのが一番の近道です。 相手が気持ちいいベーシックを踏んでくれるとそれだけで充分に楽しいのですから。 ベーシックの大事さは真っ当なインストラクタなら異口同音に強調するところですが、 実際に練習する機会はなかなかないのが現状ですよね。 特にコンペティションやパフォーマンスをやらないソーシャルダンス専門のダンサにとって、 ベーシックを見直してみようというチャンスはあまりないものです。

また単純なステップのメレンゲではリードもフォローも余裕があるので、 お互いにコネクションの質が気になってきます。 ハンドホールドもフレームも初心の頃に習ったっきりで 改めてその心地良さを見返したことはないというダンサも多いのでは? カップルダンスは相手を楽しませることがなにより大事なので、 ソーシャルダンサにとってコネクションの課題を発見することは 大きなステップアップに繋がります。

そしてベーシックやコネクション以上に捉えどころがないのがミュージカリティ。 大きめのコングレスに参加してワークショップに「ミュージカリティクラス」 と書いてあったら大抵は振り付けクラスのことで、 ソーシャルダンスに必要なミュージカリティとは全く別モノです。 実際海外のトップインストラクタたちも「ミュージカリティ」 というトピックは避けている印象があり、 大々的にレッスンが開催されているのを目にしません。 ましてソーシャルダンサ向けのミュージカリティクラスを開催しているのは、 世界でもごく少数のインストラクタだけではないでしょうか。 これはサルサの世界7不思議のひとつです。

でもソーシャルダンスでは初めて会ったパートナと 初めて聴いた曲でも踊れなければいけません。 初めて聴いた曲で何をどうして反応すればいいのか。 実はこうした基本的な考え方をトレーニングするのにもメレンゲはうってつけなのです。 なんといっても足が簡単なので曲を聴く余裕がリードにもフォローにもあるんですね。

こうしてターンパタンではなくベーシックステップとコネクションとミュージカリティに フォーカスしたメレンゲをしばらく踊っていると、 あら不思議、なぜか他のダンスの手組みも自然と取り入れられるようになっていきます。 もともとのスキームに余裕があるので身体が楽に踊れるようになって、 少し慣れてくれば、 それほど努力しなくてもいろんな動きが統合できるのです。 退屈するどころか、即興的な想像力=創造力が湧いてきて仕方なくなる、 ただ音楽に反応していたら一切何も考えないのにいろんなことを結果的にやっていた、 という心境になってくるのではないかと思います。 この辺がメレンゲダンサのひとつマイルストーンになりそうです。

ここまでくればもうレッスンはいりません。 あとはソーシャルの現場で、 自由に自分のメレンゲを自信を持ってそだてていけばいいのです。 ご自身の様々な個性を接続したオリジナルのダンスができるようになっていくはずです。

posted at: 2021-06-23 (Wed) 10:00 +0900