メレンゲでの練習メニュー
サルサを上達したければメレンゲを練習しなさい、 という台詞を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。 サルサ界最高のソーシャルダンサともいわれる Oliver Pineda も 『サルサ上達の秘訣』と題したエセーの中で、 「身体の使い方を練習するならメレンゲが一番だ」と強調しています。
今回はサルサやバチャータの上達とメレンゲの関係を改めて整理しつつ、 メレンゲの練習メニューをひと捲りしてみましょう。 そして、独りでもできる簡単なメレンゲベーシックの練習方法もご紹介します。
さて、何を措いても最初はベーシックです。 ソーシャルダンスで相手に楽しんでもらうという意味では ベーシックの練習が一番手っ取り早い効果があります。 ゆっくり踊れるメレンゲではベーシックが心地よければ1曲ずっとベーシックだけで 構わないのですから。 もちろん、サルサやバチャータでも心地良いベーシックはパートナに喜ばれます。
メレンゲのベーシックはサルサやバチャータと違って左右を交互に踏むだけです。 前後左右に足を移動したり、クィック・クィック・スローといった複雑なリズムもないので、 足の動かし方に集中する必要がなく、身体の動きだけを意識すればよいので、 体幹を動かすよいトレーニングになります。 骨盤と胸郭の連動を意識したベーシックを体得するにはメレンゲが一番の近道です。
また、ターンパタンが複雑だとリードもフォローもつい足を止めて 手だけ動かしてしまいがちですが、 メレンゲはステップが単純なのですべてのステップを意識して踏み続ける練習にもなります。
続いてコネクション。 圧されたら圧し返す、引かれたら引き返すというだけのコンセプトですが、 これがフォローにとってはたいへんな難関ポイント。 よく力を抜けといわれるけれど、 力を抜いたら気も一緒に抜けてスパゲティ・アームになってしまうとか、 圧し返す感覚と相手に合わせてついていく感覚の違いに混乱してしまうとか。 一度掴んでしまえば大丈夫なのですが、 なかなか一筋縄ではいかないところがあります。
ここでもメレンゲはゆっくりと踊れるので、 じっくりコネクションを味わう時間があって練習にぴったりです。 しかもこのコネクションの感覚はほとんどすべてのパートナダンスで共通のもの。 メレンゲで体得できればサルサやバチャータはもちろん、 他のダンスでも使えます。
そしてミュージカリティと遊び心。 サルサだとついターンパタンをこなすだけの踊り方になってしまいがちですが、 メレンゲはそれよりも音楽の中に面白い出来事を探す方が楽しいし、 遊び心あふれる掛け合いを味わうのが中心のダンスです。 ただターンパタンを延々出し続けるだけではないので、 リードにも幅が出ます。 また、ひたすらフォローに徹する従順なフォロワを脱して掛け合い上手になると、 様々なリードを引き出すことも可能になってくるので楽しいと思いますよ。 こうした実践はサルサよりもむしろメレンゲでトレーニングするのが簡単です。
ターンパタンの練習も可能
ところで、本サイトではメレンゲのリードは ターンパタンで魅了するのではないということを再三繰り返していますが、 それにも関わらず、 メレンゲはサルサなどの複雑なターンパタンを練習するのにも実は都合がいいのです。 メレンゲはタイミングの制約が緩いので、 サルサなどの他のダンスの動きをそのままゆっくり置き換えると、 リードの軌道や身体の動かし方の練習になるんです。 複雑な展開を練習してみたいと思ったときは、 直接サルサでやってみるより、 一度メレンゲで試してみると感触を確かめることもできます。 ネットで見たルーティーンなど、誰にも教えてもらえないようなパタンを 自分独りで練習したいと思ったときは、 メレンゲでトライしてみるという手はかなりオススメです。
また、複雑なパタンをごくごくゆっくりメレンゲにして踊っていると、 ひょんなところで動きの抜け道みたいなものが発見でき、 新パタンのヒントになることもあります。 実はメレンゲ中に「この動きいけるな」と思うことは意外に多いんですよ。 このため、自分のオリジナルパタンを作ってみたい人にもメレンゲはうってつけなんです。
このように他のダンスのパタンも含めてなんでも自由にやっていいのがメレンゲです。 リードの創造力次第でいくらでもターンパタンを増やしていくことができます。
だるま落としベーシック
さて、ここでは独りでも練習しやすいメレンゲの初歩の練習メニューとして 「だるま落としベーシック」を取り上げます。 だるま落とし人形の気持ちになってベーシックを踏んでみようということです。
まずは足を腰幅くらいに開いてすっきりと立ちます。 そうしたら、バス停で待っているときの要領で右の腰に乗ります。 上体の体重を全部片側の腰に乗せるという意味ですね。 次に反対の左の腰に体重を乗せかえてバスを待ってみましょう。 このとき、足は地面から離さないようにして、 腕も振りません。 右腰に乗ってバスを待ち、左腰に乗ってバスを待つ。 今度はまた右腰に乗ってバスを待つ。 これをリズムよく繰り返せば、 なんともうそれだけで充分にメレンゲのベーシックになっています。 初心者のうちはこれだけで踊っても全く構いません。
少し慣れてきたら、腰と合わせて胸を動かします。 右腰に乗って骨盤が右後ろに引かれているとき、 左胸を左前に突き出します。 水平面内で腰と胸が前後左右に引き合うイメジです。 同様に左腰に乗って骨盤を左後ろに引いたときは、 右胸が右前に引かれて出ていきます。 ここでも骨盤と胸郭が水平に前後左右に引き合うかたちを作ってください。
このように胸郭と骨盤がそれぞれ前後左右に引き合ってバランスをとっているので、 おヘソは常に頭の下にあります。 頭の位置は体重を乗せ変えてもあまり動かないように維持します。
このフォームを綺麗に作れると、 姿勢を保つのにほとんど力がいりません。 水平面内でのバランスがとれて身体が支えられるからです。 にも関わらず、胸が前、腰が後ろにあるので身体の重心は全体的に下に向かい、 安定感のある力強いステップを踏めるかたちになっています。 このかたちを常に作れるようになればメレンゲのベーシックとしては充分。 繰り返しますが、腕を振ろうとしたり、足を踏もうとする必要はありません。 リラックスして立ち、身体全体の力を抜いてみてください。
このベーシックで体重移動してみると、 だんだん身体が気持ちよいと感じるようになります。 ゆっくり踏むうちは、 足は床についたまま、腕も特に動かさずにキープできると思います。 だんだん体重移動のテンポを上げていくと、 ある点を超えたところで自然に手が振れてきます。 それはその方が身体の動きの理に適っているからです。 その場合は連動の流れにまかせてそのまま振ってください。 無理に腕を固定し続ける必要はありません。 足も少しずつ床から弾み上がる感覚になってくると思いますので、 軽く踵が離れる感覚を味わってみてください。 足裏が床としっかり噛み合って圧し合っているという感覚が出てくればしめたものです。
意識して動かすのは腰と胸だけで、 その他は連動して動くのだという点がポイントです。 腰と胸が水平面内で引き合って、 体幹の中にテンションを作っていく感覚が体得できると、 いわゆるキューバン・モーションあるいはコントラバディ・ムーヴメントなどと呼ばれる 基本的な身体の使い方が身に付いてきます。
ところで、このメレンゲベーシックの達人はだるま落としの人形です。 なぜなら腕や足を意識せずに楽に立てている、というかそもそも腕や足がないのですから。 だるま落とし人形は筋肉が一切なく、骨格構造だけで立っていますが、 よく安定して立っていることが分かります。 つまり一切の力を抜いても立てるということ。 右腰が右後ろ、左胸が左前のスライドし、水平面内のバランスをとっています。 メレンゲ初心者さんは差し当たってこのだるまさんを目標にするとよいでしょう。 このだるま落としベーシックの動きが身体に馴染み、 運動エネルギィの流れる道が身体の中に開けてくると、 ただ左右に踏み替えるだけでとても楽しくなってきます。 この感じを持続できるようになっている頃には、 充分パートナさんに喜んでもらえるベーシックが踏めるようになっているはずです。
これをサルサやバチャータのベーシックに応用するには、 ステップの足型やリズムの問題など、 もう少しトレーニングすべき課題があります。 また、それぞれのダンススタイルに合わせて 動きの大きさやフォルムを調整する必要もあるかもしれません。 ただ、体幹の中の動きの仕組みは全く同じなので、 一度メレンゲのベーシックが気持ちよく踏めるようになっておくと、 他のダンスのベーシックを学ぶ際にもとても役に立ちますよ。