Merengue Panic


サルサ

サルサはラテン音楽のジャンル名であると同時にその音楽で踊られるダンスでもある。 スペイン語で「ソース」という意味。 様々な味(サボール)の混ざったアフロ=カリビアンの混淆文化を象徴する言葉でもある。

サルサとはソースのこと

サルサはスペイン語の普通名詞で「ソース」の意。 アリオリソースなら「サルサ・アリオリ」だし、 醤油は「サルサ・デ・ソヤ」となる。 サルサとは第一義的に食べ物であり、 様々な素材の味を混ぜ合わせた料理の基本である。

英語の "sauce" と同様、ラテン語の "salsus" 即ち「塩をふられたもの」を語源とする。 "salad" や "sausage" も同じ所以である。 ちなみに給料を意味する "salary" も同源で、 これは古代ローマの兵士たちへの報酬が塩を購入するために支払われていたことが由来。 人が生きていくには「パンと塩」ということで、 塩は古くから人類にとって最も貴重な少量栄養素だった。

食材を混ぜ合わせて火にかけ、塩を入れればソースになるのだから、 ソースの決め手が塩であることは論を待たない。 これは音楽やダンスについても同様で、 サルサの肝腎は火加減・塩加減である。

音楽ジャンル名としてのサルサ

サルサという音楽の名称を巡っては種々の論争がある。 商業主義的に確立された呼び名であり、 音楽を愛する者は決して使うべきでないという人がいる一方、 アフロ=カリビアン文化のエッセンスを精確に表現する言葉なので、 この際、個別のローカルジャンル名を棄ててあらゆる音楽を皆サルサの名の下に 統合してしまう方がよいという極論まである。

Tito Puente なら 「マンボは音楽やダンスの名前だが、サルサというのは食べ物の名前」 と斬って棄てるが、 Pablo Guzmán は 「サルサは死なない。 (中略) それはアメリカスの素晴らしいくそったれどもの音楽のひとつだ。」 と最上級の賛美を隠さない。

もともとラテンミュージシャンの間でジャーゴンとして使われていた「サルサ」を 一般に広め、 アフロ=カリビアンにルーツを持つイベロ=アメリカの音楽の総称として発信したのは ファニアレコードの実績と考えられている。 この経緯については、 『オラ・デ・ラ・ソラミミ(川崎編)』 も参照のこと。 また、このきっかけになった原初のサルサともいうべき ケチャップ・ソースの「アメリカ性」については 『ケチャップのサボール(1)』 で議論している。

また、音楽としての定義や範囲も非常に広範かつ曖昧で、 何をサルサと呼ぶのかについても議論が絶えない。 キューバの音楽であるダンソンやルンバをその系譜に持ち、 チャチャやマンボとして大衆化したビッグバンドサウンドをサルサと呼ぶ、 というあたりが一般的な説明だが、 この程度の説明では全方位から矢のような反論が飛んでくる。

クラーベのフィールが存在する音楽であることが肝腎だとする見解もある一方、 あらゆる周辺ジャンルとも平気で混淆する接続力の高いサルサは、 どのように定義しても上手く定義しきることができないことによってのみサルサたりえる、 と考える人もいる。

アメリカ音楽全体にアフロ=カリビアンの影響を認める立場からは、 サルサはほとんどアフロ=アメリカ音楽にまでその定義を拡大する場合まである。 この論点は 『アメリカ音楽とラテン』 に詳しい。

サルサダンス

音楽の定義さえ困難であるからいやんわダンスをや、 サルサダンスの定義については統一的な見解を見出すことが絶望的に難しく、 喧喧諤諤やっている人もいれば、 細かい議論は気にせずに「サルサはサルサだ」と公案めいたことを呟く人もいる。

一般にはニューヨークの Palladium Ballroom で踊っていた人々のステップを参考に、 サルサ氷河期を生き延びた Eddie Torres が80年代にシラバス化したステップ群からクロスバディスタイルが再興したと説明される。 on2 から派生した on1 スタイルが世界的に普及し、 サルサダンス人口が爆発したのは90年代の後半になってからである。 それにキューバの輪踊りであるカシーノのスタイルがキューバンサルサと名乗って拡まり、 結果的に3大スタイルを形成した。 他にもカリのスタイルやプエルトリコのスタイルなどが重要であり、 それぞれのカテゴリの下位区分は無数に存在する。

関連ページ